口蹄疫のニュースに心を痛める。
先日の会見で東国原知事が珍しく声を荒れげていた。全く気の毒なことである。このような「クライシス」の際にトップはテレビ画面に向けて冷静な口調で「声明」を滔々と述べるだけで良いのであり、余のことは事務方がお答えすれば済むのである。数年前のY印乳業の際には当時の社長の「そんなこと言ったってねぇ、わたしは寝ていないんだよ、もう。」という切り口上が、ことあるごとにテレビニュースで再生され、結果「クライシス」は制御不能となりY印乳業は経営破綻に追い込まれた。
「クライシス」の際のトップのあり方で一番印象深いのはやはり「キューバ危機」のジョン・F・ケネディである。彼は3大ネットワークのゴールデンタイムを開けさせ、オーバルオフィスからTV画面に向けて極めて冷静に「国家非常事態宣言」をおこなった1)。彼や彼のブレーン(とりわけ弟ロバート)たちがどれだけイラついていたかは映画「13デイズ」を視れば良く分かるのだが、ケネディの冷静な「声明」が「クライシス」を核戦争という「世界破綻」に導かなかった重要なファクターの一つであったことは疑いがないだろう。
前任者の極めてぶっきら棒な「ぶら下がり」会見が支持率の低迷につながったと考えた小泉純一郎元首相は精力的に会見をこなしていたから、その後の指導者たちが会見での質疑応答を大切にする気持ちは良く分かるのだが、安易なワンフレーズが取り返しのつかないダメージを自らの組織に与えることをもっと日本の指導者はもっと真剣に考えたほうが良い。
最近大平正芳元首相が静かなブームなんだそうである。少年時代の私の眼には「あーうー」という語り口が真に鈍重に思えて仕方なく、政敵の福田赳夫元首相と比較してもう一つ花のない政治家に思えた。しかし前尾派を自らの派閥に代替わりさせた際のいきさつ(平たく言えばクーデター)や田中派とタッグを組むという正に「清濁併せ呑む」政治手法は官僚出身らしからぬ凄みを感じさせたし、首相になったあとで総選挙前に増税をぶち上げて大敗を喫するなど(蔵相時代自ら開始した赤字国債に対する対策だったようである)、今の政治家にみられない人気取りより政策重視の姿勢は評価されて良い。今思えば彼の会見での「あーうー」は、「あーうー」という数秒の間に自らの頭をクールダウンさせ、口から発する言葉を慎重に選ぶための巧みなルーチンワークだったのかもしれない。政界きっての読書家でもあったようである。宏池会出身の谷垣総裁も変にフレーズにこだわらず、さらに鈍重に丁寧な言葉使いで捲土重来を期されたほうがよろしいのではないか。「みんなでやろうぜ」はまだしも、鳩山首相初の所信表明演説の感想を聴かれ「(民主党議員の声援が)ヒトラーユーゲントのよう」と答えるのは頂けない。
とりあえず「クライシス」の際は自らの口から「声明」は出しても「質疑応答」はしないほうが良いのではないか。